ことしは「子ども読書年」。幼児から小学生、中・高校生、そして家族、社会全体に−と、本を読むことの楽しさ、本を一緒に読むことで親子が語り合い時間を共有することの大切さを訴えるため、全国で様々な取り組みがされている。本を読むこと、特に小さなうちから本を読む習慣を付けることが大切なのは、頭では分かっている。しかし、実際には読書にどんな「力」があるのだろう。福知山市内で文庫活動を通して「子どもと本」にかかわり、「本を読む子」と接している2人に聞いた。
素敵な言葉の世界に包まれて ・・・・・ 堀京子さん 「ほん、よんで」。夕食、おふろがすんで、ばたばたの1日が終わり、放心しかけていると、パジャマ姿の3男が絵本を手にやってくる。「ええでー。おいで」とひざに座らせると、長男、次男が両わきにやってきて、今夜もわが家の絵本タイム−幸せタイムのはじまり、はじまり…。 私の絵本好きは10年前、私の妊娠を聞いて、友人が「絵本の与え方」(福音館書店)という小冊子をプレゼントしてくれたのがきっかけで始まりました。 福音館書店の松居直先生は著書「絵本・ことばのよろこび」の中で子育てと絵本について「それは子どもを本好きにするとか、子どもに何かを教えるとか、知識を多くするといったたぐいの、枝葉末節にとらわれたことではありません。親と子が共にいる喜びと、絵本の楽しさを共にする喜びの場が生活の中に創造されることが、子どもに本を読んでやる最高の意味です」とおっしゃっています。 でも、そんなバタバタした生活の中でも、気分転換にと絵本を開いて読み聞かせを始めると、絵本を作った人たちの素敵な言葉の世界に、親子ですっぽり包み込まれていくんです。その心地よさといったら。もう母の怒声は、かなた。ひざに乗せている子どもの硬くなっていた体まで柔らかくなってきます。 「よかったねー。おーしまい」で、ぱたん、と本を閉じる。と、「もう1回」。「もうひとつ」と別の本を持ってくる。こんなアンコールに応じるのも楽しみ。そしてアンコール本を読みおえると今度こそ、わが子最高の笑顔にお目にかかれるのです。これぞ「ことばのよろこび」。 この楽しさをみんなと分かち合いたくて、福知山YMCAブッククラブを作りました。それから5年。蔵書2000冊が、お宝の持ち腐れになるのがもったいないって気持ちもあって、子どもがお世話になっている小学校や幼稚園、保育園への絵本箱、絵本タイムの出前を、ぼちぼちやっています。家でわが子に読むのとまた違って、四十人近い子どもたちとの「ことばのよろこび」はダイナミックで、読み手の力を引き出してもらう感じです。 無我夢中のうちに過ぎていく毎日ですが、こうして「ことばのよろこび」を共有した思い出は、思春期に向かう子どもと私をつなげてくれると確信しています。 絵本は「思春期に花開く子育て」の強力なサポーター。あなたもお子さんと読んでみませんか?
人生に対する信頼感を育む ・・・・仲野恵子さん 一斉にそそがれる食い入るかのような瞳(ひとみ)、はじける笑い、ほーと広がる安堵(あんど)のため息。 子どもたちに本を読んでいると、夢中になっている彼らの集中力に引きずりこまれ、さらに深い本の中身が見えてくることがあります。一人で読んでいたら味わえない、心の響きあいを感じる豊かなひとときです。読み手の至福のときです。 子どもたちは、どきどき、わくわくしながら登場人物のだれかに寄り添い、お話の世界を経験しているようです。 「あこがれはいつも主人公。本を読み切った次の日は、その主人公きどりで登校している僕がいる。前日の僕と少し違う僕がいる」。そんなことをいった小学校高学年の男の子がいました。「そりゃ少しオーバーだ」と思っていたら「その話はよくわかる。赤銅鈴之助にふれた翌日、俺も正義の味方になっていた。馬にパカパカ乗っていた」と言ったおじさんもいました。確かに、よくわかる話です。 言葉の経験。それは本当の経験ではありません。けれど実体験よりもはるかに深く心に残ることもあるようです。 混ざり物のいっさいない純なる世界で、主人公と一緒に困難を乗り越え、生きるのです。その鮮やかなイメージを伴った言葉は、体の奥深くに入り込んでいくのでしょう。 1冊の本でとは思いません。けれど、たくさんの本との出あいの中から少しずつそんな言葉が蓄えられたら、それは本当の「生きる力」になっていくのでは、と思うのです。 「根性はスポーツの世界の専売特許じゃない。読書でだって養っていける」。これは文庫に来る本好きの子どもたちをみてきた実感です。本を読んでいる子どもたちの多くが、しっとりと強い。 幼いころ、若いころ、身体(からだ)の中に蓄えたいっぱいの温かいイメージたちは、さらに言葉を超えて、もっと生理的な、例えば彼らの快、不快の感覚の中にも息づいて、これからの生きていく行動を促していってくれるようにも思います。 現実の世界から逃避するための本ではなく、この生きにくい現実世界でイキイキと生きる力を育むための本なのです。 だからお父さん、お母さん、温かさのいっぱいつまった子どもの本、子どもさんと一緒に読んでごらんになりませんか。何よりも子どもの本は、おもしろくて、奥が深くて、元気がわいてくるものなんです。 こんなステキなもの、子どもだけに独占させておくのはもったいない! と思うのです。 |